現在「奎」代表として活躍中の作者。「奎」に集うメンバーはこの句集を読んだことがあるだろうか。なければ、ぜひ何らかの方法で入手するなりなんなりして欲しい。個性豊かな会員を優しく独特の距離感でまとめ上げる手腕の一端がこの第一句集で伺えるように思う。
初読の際は、付箋を貼らずに好きな句に印をつけた。今回、この記事を書くにあたり、付箋を貼ってみた。サラサラした触り心地がいい、フィルム付箋。付箋の色は装丁に合わせて水色と紫。寒色系で、いい感じ。気負わずに書いていくので、ゆるっと読んでほしい。
星飛んで人は痩せたり太つたり
生き死にではない、太る痩せるの移り変わりがユーモラスかつ壮大に捉えられており、新鮮。自分はあまり体重に変動がなく、ちまちまと太り続けているだけの半生なのでこの句をうまく味わい切れていないかもしれない。
秋うらら他人が見てゐて樹が抱けぬ
抱けばいいのにねえ。可愛い。と最初は思った。恋愛めいた独占欲をこの樹に感じているのかもしれない。秋うららがいい。暖かいだけではない、と釘を刺すような季語の斡旋。
序で中原道夫さんがこれは奥さんのことを詠んでいますよ、と種明かしされていたけどそういうネタバレは句の自由な(勝手な、とも言う)鑑賞の妨げになってしまうなあなどと。
えんぴつ一本どれだけの蝶描けるか
ものを作ることの限界に挑みたい、という気概を感じる。お前はどれだけ描くんだ、どれだけ描きたいんだ、という問いかけの気持ちも感じる。
なりはひに散歩があれば鰯雲
いやそれ最高でしょ。ほんとそれ。ってなる…。
をみなみなさくらのまへでおなじかほ
女性に対するシニカルな目線というか、お前らつまんねーんだよ的な気持ちがにじんでいて、えっこわっ、と思ったり、いやいやいやそこで比べるってのもさあ、とも思ったりしつつ惹かれてしまう句。
寒卵微笑むやうに湯の沸きて
どういう人生を送るとこういう比喩ができるんだ。
他にもいい句がいっぱい載ってるので、読みたい人は頑張って探して読むべし。