冬と云ふ口笛を吹くやうにフユ 川崎展宏
『春 川崎展宏全句集』(ふらんす堂)より
俳句を始めて1〜2年、まだ大学生で結社にも入らず、月1回のサークルの句会と他大学の句会に時々出ていた頃だからもう20年は前。
サークルの先輩が、OBが所属している俳句同人誌の句会に出てきた、と話していた。その同人誌の代表を務めているのは「テンコー」先生、というらしい。
当時の私の頭にはプリンセステンコーしか思い浮かばなかった。先輩曰く、テンコー先生は突飛な句を出していて、口が超絶悪くてお酒をとんでもなく飲むらしい。ある意味イリュージョンだ。
「なんて恐ろしいんだ……」イリュージョニストのガワで想像してしまったこともあり、私が最初に出会ったテンコー先生像はとんでもないものだった。
その1年後、そのテンコー先生が共著のひとりである『現代の秀句』という本に出会い、私は俳句への意欲を高めることになる。
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川崎展宏の全句集を今年買った。無職になったばかりの時期でちょっと懐が寒くなったが、買えなくなる前に買った方がいいな、と思ったからだ。購入につながる具体的なエピソードがあったわけではないが、いつか私に必要になるものがたくさん載っているはず、という確信に近い気持ちがあった。
展宏の句は口ずさみたくなる句が多い。〈うしろ手に一寸紫式部の実〉〈「大和」よりヨモツヒラサカスミレサク〉〈ふたりしづかひとりしづかよりしづか〉〈一葉忌とはこんなにも暖かな〉。ぼーっとしている時に思い出すことがある。その中でも〈冬と云ふ口笛を吹くやうにフユ〉は、とりわけ「なんだか思い出してしまう句」である。
「フユ」の口先だけでする発音、発音した時に唇の乾きがヒュッと音を呼びそうになるあの感じ。この句を読むと、毎年「今年こそは寒さに負けず楽しく冬を過ごしたい」と思いながら冬という単語を発音する、初冬の気分を思い出す。声に出して読むハ行、文字で読むハ行、両方の側面が楽しめるところも楽しい。
ヒュ〜ッとご機嫌に冬を乗り切りたいが、朝はつらいし腰は痛むし日は短いし、ちっともご機嫌にならない。だからこそ、なんだか思い出してしまう句。今年の冬もたくさん思い出すと思う。
全句集、もう在庫ないかな〜と思って調べてみたらまだあった!(2024年12月上旬現在)みんな買ってちょっと貧乏になろう!