てふこよもやま

俳句を詠んでいる松本てふこが書いています

丸谷三砂『初葉』

「天為」で有馬朗人に師事していた作者。「パピルス」にも所属しているとのこと。「天為」、端正で知的な書き手が多くて結社誌を読むと楽しいんですけど、『初葉』はまさに「天為」の良さが凝縮された句集だなーと思いました。

装丁と栞紐のブルーが素敵。カバーを外した時の色の方が好きだったな。

森の香の香水を買ふ誕生日

大学に街より早き秋の暮

鷹匠の据ゑ胼胝に鷹戻りくる

指さして濃くなる闇や風の盆

夕顔や酢を借りにゆく垣づたひ

うすきこと涼しと思ふ鉋屑

江戸絵図の外れに木場や水の秋

(2022年・角川書店

BL俳句ネプリ「彗星書架」第4号

「逆光」と「デートつて」の2作、合計10句出してます。よろしくどうぞ!参考にしてもしなくても全然大丈夫なんですが、プレイリスト作ったんで興味ある人は聴いてってください。ネプリは18日までですが、プレイリストは気が済むまで置いておきます。

「逆光」のプレイリスト

ぼんやりとアイデアだけが浮かんだので、会社帰りに残業ハイの頭でM1とM2を聴きまくって形にしました。どっちもちょっと雑踏っぽいSEが入っててエモい。連作には全然雑踏は出てこないですが……。

M1、原曲は人生で一番聴いた曲かもしれない。数ヶ月前に知ったリーガルリリーのバージョンがいいなあと思って。

M2、カーペンターズのカバーですね。これも20年以上聴きまくっている。

M3、なんとなくです。この曲をラジオで聴いたのがきっかけでナンバーガールを知りました。ライブアルバムでしか聴けないけど、彼らでベスト3を作ったら絶対入れる好きな曲です。

「デートつて」のプレイリスト

「逆光」より心情がじたばたしていますね。作った時はなんの曲も聴いてなかったんですが、「逆光」のプレイリストと対比させようと思ったり思わなかったり。

M1、みやさとさんがイメソンに勧めてくれました。高校生の頃に矢野顕子を聴きまくっていたので「なんで好きなのバレたの!?」と思ってしまった。

M2、こういう健やかな感じのふたりかなーと思って。

M3、このプレイリストを考えていた時にナンバーガールがちょっとブームだったんですね。ちょっとそわそわしているところがイメージに合っていたので。

こんな感じですー。

太田かほり・八染藍子『杉山赤冨士の俳句』

原爆投下直後の広島で結社「廻廊」を立ち上げ、「戦後の広島に文芸の太い根を下ろした」(本文より)俳人・杉山赤冨士。

私はこの本で初めてその存在を知ったのですが、戦時中の句で戦局への微かな違和感を匂わせる句があったり、師事した虚子と後年距離ができる過程だったり、原爆を俳句ではなく短歌で詠んで旧友や教え子の名前を詠み込んだり、

俳句、そして広島に生きることに全力だった生涯が知れて興味深かったです。

教師としての破天荒なエピソードや原民喜との縁も書かれています。

「廻廊」での連載の書籍化ということもあり、赤冨士を知らない読者からするとちょっと持ち上げすぎじゃないかなと思ったり、赤冨士の娘である八染藍子(鷹羽狩行に師事し、『廻廊』を継承)が共著ということで美しいファミリーヒストリーの側面が強調されているところに少々読みにくさを感じましたが、戦争への忌避感がなくなりつつある今の空気に思うところのある人に読んでほしい一冊でした。

紀元節まつくらやみに暮れにけり(S15)

炎天へすべ無けれども愛を愛を(S20)

虹の虚子おもへば子規は僧の如(S23)

美しきことを伏字に西鶴忌(S28)

花菜みち喪のきぬずれのうちつゞく(S35)

毛蟲焼くアイヒマンより火をもらひ(S36)

運動会矜持すくなき國旗あぐ(S40)

(2023年・ふらんす堂

「連句新聞」に寄稿しました

連句新聞」2024年春号に「連句人の友人がいる俳人です」というコラムを書きました。

普段は俳句をやっている自分の、今の連句との付き合い方をざっくばらんに書いています。

Twitterで知り合って仲良くなった人が連句を頑張ってやっていて、その縁で自分も時々やっていますという話なんですが、そこで言及した素敵な連句作品だったり関連本だったりをせっかくなのでここでそのアクセス方法だったりをご紹介できればと。登場順にやっていきます。

 

・「ゆるり連句のつくりかた」

高松霞さんが発行した、連句のとっても基本的なところが書かれている冊子です。コラムの中で紹介した「裏をかへせば」もこちらで読める(って書いておけばよかった!申し訳ない)。

入手可能な本屋さんはこちら。

https://twitter.com/kasumi_tkmt/status/1726889964145983749

 

・「連句ゆるり」のYouTube

連句新聞」2023年冬号の石原ユキオさんのコラムでも言及されてます。

https://youtu.be/ZQQpUWnc_lU?si=vMYPqlznxKADWI_R

 

宮城県連句協会の連句作品

これ好きだった!というものを貼っておきます。

http://renkushinbun.com/renkusakuhin/awakiiteboshi/

http://renkushinbun.com/renkusakuhin/yokuasobi/

 

・週刊「川柳時評」

川柳も連句も、短歌も俳句も取り上げられています。

小池正博さんの短詩系を網羅して噛み砕き論述するパワーはすごい。見習いたいです。

https://daenizumi.blogspot.com/

私が衝撃を受けた「連句に純粋読者がいない」話はこちらで。

https://daenizumi.blogspot.com/2021/08/blog-post_14.html

 

私の今回のコラムはまさに「にわか勢」そのものの文章なんですが、これきっかけで連句気になってきたわって人がひとりでもいたらと思ったので補足でした。

どうでもいい裏話ですが、「裏をかへせば」を読んだ時になぜか「ロンリー・チャップリン」が思い浮かんでApple Musicでいろんなバージョンを聴くなどしました。やっぱり原曲が一番良かったです。イメソンってこと?

仲寒蝉『全山落葉』

今年もよろしくお願いします。地震で被災された方、お見舞い申し上げます。

自分の読書メモとして使っているので更新しました、という告知は特にしませんが、時間があって気になったら読んでください。

がまの穂と答ふがまの穂かと問はれ

小澤實の〈「はい」と言ふ「土筆摘んでるの」と聞くと〉と思い出した。この土筆の句で「はい」って言ってるのが如月真菜さんだというのは私の結社「童子」では有名な話です。

噴水の昼を押しとどめてゐたり

白魚や死ぬとは濁ることにして

八月といふ大いなる傘の中

白靴の似合ひさうなる遺影の父

(「ウクライナ」の前書き)

地下壕へ少女スケート靴持つて

掘炬燵にて書く死亡診断書

何回か句会でご一緒したことがあるのですが、とにかくうまい人ですよね。そして推敲の跡がない。多作なのもすごい。10年間で4万句から選んだっていうのもすごい。

第2句集のことを具体的に考えたくなってきたのですが、やっぱり300句は欲しいよなあ。今年は句会にちゃんと出なきゃダメだな。

(2023年・ふらんす堂

中川すなを『鳳笙』

金縷梅や余りし時間あたたかき

濡れながら小鳥のくぐる時雨虹

能登に入り停車時間の刈田風

結ぶこと数かず加賀の年用意

雪吊りや毀すと決めし家に住み

旅支度七草椀を置いてより

小寒のたたむタオルの白ばかり

討死と書かれし墓標雁渡る

花活けて孤島のごとき寝正月

雪吊りをほどくや昼の月近く

翔んでゐる眼をして飛魚の売られけり

普羅の師系に連なる作者。序でこんなに師系の話してるのは珍しいなあ、と思った。

(2023年・角川書店