原爆投下直後の広島で結社「廻廊」を立ち上げ、「戦後の広島に文芸の太い根を下ろした」(本文より)俳人・杉山赤冨士。
私はこの本で初めてその存在を知ったのですが、戦時中の句で戦局への微かな違和感を匂わせる句があったり、師事した虚子と後年距離ができる過程だったり、原爆を俳句ではなく短歌で詠んで旧友や教え子の名前を詠み込んだり、
俳句、そして広島に生きることに全力だった生涯が知れて興味深かったです。
教師としての破天荒なエピソードや原民喜との縁も書かれています。
「廻廊」での連載の書籍化ということもあり、赤冨士を知らない読者からするとちょっと持ち上げすぎじゃないかなと思ったり、赤冨士の娘である八染藍子(鷹羽狩行に師事し、『廻廊』を継承)が共著ということで美しいファミリーヒストリーの側面が強調されているところに少々読みにくさを感じましたが、戦争への忌避感がなくなりつつある今の空気に思うところのある人に読んでほしい一冊でした。
紀元節まつくらやみに暮れにけり(S15)
炎天へすべ無けれども愛を愛を(S20)
虹の虚子おもへば子規は僧の如(S23)
美しきことを伏字に西鶴忌(S28)
花菜みち喪のきぬずれのうちつゞく(S35)
毛蟲焼くアイヒマンより火をもらひ(S36)
運動会矜持すくなき國旗あぐ(S40)
(2023年・ふらんす堂)