てふこよもやま

俳句を詠んでいる松本てふこが書いています

湯浅洋子『浮布』

最近、90年代後半〜2000年代前半の、自分が入会する前の「童子」を読むのがめちゃめちゃ楽しくて(2018年当時)。今と雰囲気が全然違うんですけど、主宰の文章が今よりずっとキャピキャピしていたり、元気副主宰が持ち前のバイタリティでどんどん結社内での存在感を高めていく途中だったり、優しいけど秘めたパッションがすごい明彦編集長が文学青年スメル全開で熱くて難解な論をガシガシ書いていたり、虚子への視線もちょっとまだ全部は信じ切ってないぞというテンションだったり(今はもう静かに心酔している感じです)。人に歴史あり、という気持ちになれます。

湯浅洋子さんは「童子」の創刊時の会員ですが、私が「童子」に入会した14年前はもうあまり誌面に登場されていなかった記憶があります。半年ほど前に亡くなられた時に主宰がエッセイで彼女の思い出を振り返られていたのですが、それが非常に不思議な余韻に包まれていたので、読もう読もうと思って積ん読だった第二句集『浮布』を思わず読んでみました。

 しほからとんぼ油じみたる船が着く(『淡路島』と前書き)

 短か夜をオープンカーでやつて来る

 アラジンの衣装を縫へば夕立来る(『岩国合唱団』と前書き)

 芋煮会雨の中にもにはか雨

 神留守の隣の屋根を見て暮らす

 木槿咲くやふらりと東京へ

 マネキンの服をぬがせて掃納

 冬の鹿おつとりと海みてゐたり

 浮布の池の風来る柚子湯かな

当時の「童子」という結社のイメージよりもやや渋い作風というか、ぶっきら棒でレトリックに凝らないシンプルな構成とじわりとした面白さがゆっくり効いてくる句集でした。